【薬学科(6年制)】血糖値が合図!必要なときにだけ効くインスリンで低血糖を防ぐ ― 城西大学薬学部などの国際共同研究チームが開発 ―
血糖値が合図!必要なときにだけ効くインスリンで低血糖を防ぐ
― 城西大学薬学部などの国際共同研究チームが開発 ―
2025年10月8日 10:00 | プレスリリース?研究成果
城西大学薬学部の江川祐哉教授、北岡諭助教らの国際共同研究チームが、血糖値に応じてインスリンを放出する、安全性に優れた薬剤の仕組みを発表しました。低血糖を起こしにくく、安全で使いやすいインスリンの実現に大きく近づくものと期待されます。この研究成果は、英国の王立化学会が刊行する権威ある学術誌『Chemical Science』に掲載されました。
【発表のポイント】
?血糖値に応じて必要なときだけ作用し、低血糖を起こしにくい安全性に優れたインスリン製剤の開発
?化学修飾によるインスリンの一時的な不活化と高血糖時のみ再活性化される仕組みを構築
?製造や注射が容易な完全溶解型の液体製剤の実現
?「薬を眠らせ、必要なときだけ起こす」技術による、スマート医薬品開発への展開と将来の応用可能性
【研究の背景】
インスリンは血糖値を下げるホルモンであり、現在も糖尿病治療に欠かせない薬として広く使われています。インスリンは食後に血糖値が上がることを見込んで自己注射されますが、その見込みを誤ったり、食事のタイミングがずれたりすると、インスリンが効きすぎて低血糖を起こすことがあります。低血糖は意識障害などの危険な症状を引き起こすことがあり、安全性を備えたインスリン製剤が求められています。しかし、血糖値に応じて自動的に作用を調整できる仕組みは、これまで実用化されていません。こうした「必要なときにだけ効くインスリン」は、世界中の研究者が長年追い求めてきた夢の薬です。
【研究成果】
研究チームは、「必要なときにだけ効くインスリン」を実現するために、インスリンに特別な化学構造を付け、その作用を一時的に抑えました。これは、化学修飾という“アイマスク”をかけてインスリンを眠らせた状態にたとえられます(図1)。インスリンが必要になるのは血糖値が高いときです。そのときに、眠ったインスリンを目覚めさせる“アラーム”の役割を果たすのが、グルコースオキシダーゼという酵素です。この酵素は、血糖のもとであるブドウ糖を酸化するときに過酸化水素を生じます。この過酸化水素が化学修飾部分を分解し、インスリンが元の姿に戻ることで再び血糖値を下げます。すなわち、血糖値が高いほどアラームの音が強まり、眠っていたインスリンを起こして作用させる仕組みです。化学修飾インスリンと酵素を溶かした注射液を高血糖状態の動物に投与したところ、血糖値の低下が確認されました。一方、正常血糖のときに投与しても血糖値に変化がなく、低血糖を起こしにくいことが分かりました。これにより、必要なときだけ作用する安全なインスリン製剤の設計が可能であることが示されました。
【図1. 必要なときにだけ効くインスリンのイメージ】
血糖値が正常のときは、化学修飾されたインスリンは眠った状態にあり作用しない。血糖値が上昇すると、酵素反応を介して化学修飾部分が外れ、インスリンが目を覚まして血糖値を下げる。
【論文情報】
タイトル: Fully dissolved glucose-responsive insulin delivery system based on a self-immolative insulin prodrug and glucose oxidase
著者: Satoshi Kitaoka, Minori Kojima, Miho Koita, Hiroki Koyama, Chisato Mori, Mako Okabe, Ryusei Ando, Kaede Kobayashi, Ryo Watanabe, Yuki Takano, Tony D. James, Yuya Egawa
掲載誌: Chemical Science, 16, 2025, 16645–16658
DOI: https://doi.org/10.1039/d5sc02817e
詳細(プレスリリース本文)
【問い合わせ先】
城西大学薬学部 教授 江川 祐哉(エガワ ユウヤ)
TEL:049-271-7957
E-mail:yegawa@josai.ac.jp
記事提供:江川祐哉
記事掲載:間祐太朗