私は数ある管理栄養士として働くことのできる職場の中で、行政を選びました。入学した頃は管理栄養士の花形である病院や研究者といったものを目指していました。しかし、管理栄養士の可能性がもっと大きく広いものだということが学んでいく中にわかっていくにつれ、ほかの道もあるのではないかと考えるようになったのです。
特に私が専攻していた予防栄養や公衆栄養といった分野は、病院に向かう前の状態でどうアプローチできるかというものを多角的に考える学問であり、病院での栄養管理とは少し視点が異なります。考えてみると、栄養士法で定義される管理栄養士はかなり医療者としての側面が強く、予防栄養や公衆栄養はある意味で管理栄養士としての定義に反するかもしれません。しかし、予防的な観点は現在非常に注目されており、社会的ニーズとしては医療者よりも公衆に広く働きかけられる管理栄養士像が大きくなっているのを感じます。もちろん、諸先輩方が勝ち得た医療者としての管理栄養士も当然ながら大切です。様々な領域で管理栄養士としての採用が増えていることは、管理栄養士が医療者としてとどまらない仕事の幅を求められていることを如実に表しているのではないでしょうか。多くの職場候補の中から専攻テーマを生かすには行政が一番広い位置から見ることができそうだと考え、初めは厚生労働省の栄養系技官を目指しました。ですが、初めから国という大きな組織に属して、住民という小さな単位が見ることができるのかという疑問を抱きました。そのため、行政の最小単位である市区町村から管理栄養士として、何ができて、何をしていて、何の問題があるのか、この目で見てから考えようと思ったのです。
私は図らずしてライフステージを追って住民に関わることになりました。はじめは義務教育世代の食育や学校給食運営実態を見させていただき、現在はそれ以降の方に関われるような事業や講座を行っております。順にみていくにつれ興味深いことが分かってきました。
学校給食での食育は栄養教諭及び学校栄養職員の多大なご尽力により、積極的な学びにつながっております。特に飯能市では純粋なセンター給食はなく、自校式と親子式の共同調理場形式で成り立っているため、栄養教諭等が近い位置にいるという大きな利点があります。そのため、児童生徒は給食で気になることや知りたいことを直に聞くことができる上、栄養教諭等はつぶさに栄養状態を見てアドバイスすることができる状況にあります。給食の衛生管理や運営について視察に
各校を訪れると、児童生徒から「この献立が好き!」といった感想から、「野菜は体にいいんだよ。」といった学んだことのフィードバックを聞くことが多くありました。この学びが継続していけば当然、望ましくない生活習慣をする人は減るはずだと考えられるでしょう。しかし、現実では義務教育を修了するとともに生活習慣は大きく変動します。主食?主菜?副菜のそろった食事の回数は減り、朝食の欠食、野菜摂取の減少が顕著になり、あれだけ熱心に食育を学んできた子ども達とは思えない習慣に変貌を遂げるという興味深いデータが取れたのです。確かに、自分の生活を振り返ってみても生活習慣の変動は当然のように思います。大きいのは給食の終了、行動範囲の広域化、友好関係の変容等要因としては様々あります。そうだとしても、学校で得られた学びが失われてしまうにしてはあまりにも揮発性が高いように思えます。この問題の解明?改善は一朝一夕にはいかないでしょう。しかし、このような問題を取り扱えるのも行政ならではのやりがいです。
保健センターでの仕事はまだまだ何をどうしたらいいか具体的に提案できるまでに至っていません。ですが、この住民に近い位置から講座等ができる機会ですので、とにかく何でもやってみようの精神で頑張ろうと思います。多くの場所でもそうだと思いますが、行政でも管理栄養士は一人で担当を任されることがほとんどです。自己重要感よりも孤独感を強く感じる時もあります。そんな時は違う職種の友人と会ったり、大学の同期と話をしたりしています。思わぬ発見や仕事に生かせるヒントを私は友人から多くもらいました。このような専門職だからこそ仲間や交友関係は重要です。
皆様も行き詰ったり、苦しくなったりしたら立ち止まって周りを見てみてください。同じ専門職として一緒にがんばっていきましょう!
細谷 高広(ほそや たかひろ)プロフィール
<略歴>
2020年 城西大学 薬学部 医療栄養学科 卒業
飯能市役所 入庁