地域イノベーションとは?成功事例を参考にその意味に迫る

地域?社会
勝浦 信幸

「地域イノベーション」というと地方創生、地域活性化、観光振興、産業振興、環境保全などに関連付けられて語られることが多いように思います。

ここでは、いくつかの成功事例を参考にしてその意味や成功の条件などについて少し考えてみたいと思います。

地域イノベーションの概念とは?

「地域イノベーション」と聞いても一体どのようなことなのかイメージしにくいかもしれません。

「地域」という言葉も曖昧ですし「イノベーション」という言葉も多様な意味に使われます。

2つの曖昧同士の言葉を合わせているので、さらにわかりにくいというわけです。

ここでは、「地域」を市区町村のエリア程度と、「イノベーション」を新しい発想や取り組みによって新たな価値を生むことと一応定義したいと思います。

社会課題を解決するための新しい取り組みなどを指す「ソーシャルイノベーション」と言い換えてもいいかもしれません。

地域イノベーションが必要な理由やいくつかの事例を紹介していく中で、地域イノベーションの「主役」は誰なのかを、ぜひ一緒に考えていただきたいと思います。

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なぜ今、地域イノベーションか?

変化に応じた持続可能なまちづくり

社会は常に変化しています。「今のままでは今のままでいられない」というのが現実です。

徐々に変化しているものもあれば急激に変化しているものもあります。変化していないと思うのは単に気づいていないだけかもしれません。

例えば、実際に少子高齢化の問題に気づくのは、小学校が統廃合されたり、隣に高齢者介護施設ができたり、近所が空き家になったりしてからだったりします。

地域イノベーションは、過疎地域や消滅可能性都市だけの問題ではありません。

情報通信技術の急速な進展

今、生成A Iがどんどん進化しています。情報通信技術の急速な進展は私たちの生活にも大きな変化をもたらしています。

2016年以降、スマホの普及がパソコンを上回っています。家族団欒から家族グループLINEが普通になりつつあります。

情報伝達手段の変化は人的ネットワークも大きく変化させました。人のつながりは地域イノベーションにとっても重要です。

地域の担い手の変化と課題の山積

これまで地域課題の解決は、自治会、PTA、子ども会などがその一部を担ってきました。

これらの地域コミュニティが前提としていた家庭は、3世代同居、専業主婦、自営業などでした。

単身世帯の増加、核家族化、高齢化、共働き家庭の増という変化の中にあって、従来型の地域コミュニティは崩壊の危機にあります。

コミュニティだけでなく、生産年齢人口の減少は地方行政の財源にも影響し、道路橋梁、公共施設などの社会インフラの劣化、公共サービスの縮小にもつながります。

地域課題は、今後ますます多様化、複雑化、高度化していきます。

このような社会の変化に対応していくためには、地域イノベーションが常に必要になります。

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地域イノベーションの成功事例

蔵の街の再生:埼玉県川越市

2023年の年間観光客数が約720万人という川越市の一番街「蔵の街」。

振り返れば一番街は1960年代から衰退の一途を辿り、人影もまばらで店じまいや蔵造りの取り壊しが進みました。

1980年代になって、歴史的な建造物が取り壊されていくことに危機感を持った若手の商店主たちが専門家たちと勉強会を重ねて「蔵の会」という組織を立ち上げたのがスタートです。

現在は、歴史的景観の保全や観光だけでなく、地域活性化に向けた様々な取り組みを市民主体で行っています。

川越市にはこのような活動に触発されてたくさんのまちづくり団体が生まれています。

葉っぱビジネス:徳島県上勝町

人口約1,400人、高齢化率50%超の上勝町。徳島県のほぼ中央の山間部にあり平地がないため主な産業は林業やみかん栽培でした。

1981年の異常寒波でみかんの樹が全滅。

何もないように見える山にも葉っぱはたくさんあることに気づいた農協職員の横石さんが1986年に葉っぱをつまものとして全国の料亭に販売することを発案し「葉っぱビジネス」が誕生しました。

栽培や採取は農家の高齢者、受注?流通は地元農協、市場調査?営業活動は民間会社がそれぞれ役割分担しています。

それを支えているのがICT情報ネットワークです。

アートからワーク、そして人材育成の町へ:徳島県神山町

 こちらも徳島県山あいの町。人口は5,000人弱です。

神山町は「地方創生の聖地」とも言われ、たくさんのITベンチャーがサテライトオフィスを構えています。

イノベーションの仕掛け人となっているのがNPO法人グリーンバレーの大南さんです。

1991年、戦前にアメリカから送られた「青い目の人形」の里帰り企画をきっかけに、国際交流が始まり、世界からアーティストを招いた国際芸術村「アーティスト?イン?レジデンス」を開催してきました。

2005年に神山町全域に光ファイバー網が敷設されてからはサテライトオフィスと移住者を呼び込むために「ワーク?イン?レジデンス」というコンセプトを打ち出しました。

さらに2023年4月には「テクノロジー×デザイン×起業家精神」を教育の土台とする「神山まるごと高専」を開校し、イノベーティブな人材育成に先進的に取り組んでいます。

キーワードは「きづきときずな」

これらの成功事例から「きづき」と「きずな」というキーワードが浮かんできます。

「きづき」とは地域課題を自分ごと化するということです。そのためには複雑な課題を深掘りする必要があります。

「きずな」とは人材、物的資源、情報など地域にある様々な資源と繋がることです。

信頼に基づくネットワークと言ってもいいかもしれません。

城西大学では、地域との協働?協創により課題解決のための様々なプロジェクト(PBL:Problem?Project Based Learning)に取り組んできました。

その一つ、学生たちによる「インターナショナルフェスティバル」を例に「きづきときずな」について簡単に述べます。

多文化共生社会実現をテーマに議論すると「行政情報を多言語化すべき」とか「店舗内の表示も英語表記で」という意見になりがちです。

さらに「なぜそうならないのか?」「自分たちでできることは何か?」という問いを立てることによって自分ごと化(きづき)に繋がります。

このプロジェクトでは、すでに多くの外国出身の方と一緒に暮らしているということをまずは地域の人に知ってもらう(可視化)ために、学生たちでインターナショナルフェスティバルを開催することにしました(きづき)。

外国出身の出演者?出店者への声かけ、資機材の確保やその運搬?保管、資金の調達など課題は山積。でも地域には、資金、人材、機材、情報など多くの資源があります。

きちんと説明して趣旨に賛同してもらえれば惜しみなく協力してもらえます(きずな)。この「きずな」は開催を重ねるごとに強くなっていきます。

そして別のプロジェクトにもつながっていくことになります。

関連記事:地域活性化を目的としたまちづくりのユニークな成功事例や課題を解説

まとめ

先に挙げた成功事例はほんの一部で、他にも島根県海士町の例などたくさんあります。

どの事例も熱い想いを持っているキーパーソンが適切な仲間たちと危機感を共有し、主体的に継続して同じベクトルで取り組んでいることがわかります。デジタルを活用した連携や情報発信力も強力です。

行政にお任せで成功した例はないと言っても過言ではありません。

地域イノベーションは、その地域に縁のある人たちが社会の変化に対応、あるいは変化を先取りして、新しい価値を創造していくことです。

繰り返しますが、その際のキーワードは「きづきときずな」です。

この記事を書いた人

勝浦 信幸

  • 所属:経済学部 経済学科
  • 職名:特任教授
  • 研究キーワード:創造的地域経営/協働によるまちづくり/地域連携教育評価/持続可能な開発/ソーシャル?マネジメント

学位

  • 修士(学術) ( 2004年03月   放送大学 )

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